事務として毎日書類を処理しながら「人の採用や育成に関わる人事に移りたい」と思ったことはありませんか。あるいは、採用担当と連携するうちに「自分がやってみたい」と感じた方もいるかもしれません。でも、「事務から人事はさすがに難しいのでは」という不安が頭をよぎって、一歩踏み出せていない。そんな方は多いはずです。
実は、事務職の経験は人事転職において武器になる可能性があるのに、多くの方がその事実を知らないまま諦めてしまっています。この記事では、3社(IT・製造・商社)で新卒・第二新卒採用の人事担当として働いてきた筆者の視点から、事務経験者が人事へ転職する際の現実的な戦略と、選考の裏側で実際に評価されていることをお伝えします。
事務から人事への転職は、そもそも可能なのか
「人事は専門職だから、未経験では絶対に無理」と思い込んでいる方は少なくありません。でも、それは半分しか正しくありません。
確かに、人事制度の設計や評価制度の企画といった上流業務は、豊富な専門知識と実務経験が求められます。しかし、人事の仕事のうち、未経験歓迎の求人が多いのは人材採用と労務の領域です。入り口のポジション次第では、事務経験者にも十分なチャンスがあるのです。
また、リモートワークなど働き方の多様化やそれに伴う業務プロセスのデジタル化が進んでいることで、人事・総務の役割がより一層重視されています。一方で、人事・総務は配置人数が少なく退職者も少ない傾向があるため、市場に出回る求人数自体は多くないともいわれています。だからこそ、チャンスをつかむための準備が重要です。
ただし正直に言うと、簡単ではありません。 人事求人に応募者が殺到し競争率が高まるため、未経験者が採用される可能性はさらに低くなるという側面もあります。だからこそ、「事務経験者ならではの強み」を戦略的にアピールすることが必要になります。
事務経験者が狙うべき人事ポジション|まず「入り口」を選ぶ
よくある誤解として、「人事転職=採用担当」というイメージがありますが、実際には複数の入り口があります。自分の経験に合った領域を選ぶことが、転職成功の第一歩です。
労務アシスタントという王道ルート
事務経験者に最も親和性が高いのが、労務領域です。 労務業務を入り口にする場合、事務職の経験があり、ExcelなどのOfficeスキルがあると有利とされています。給与計算のサポート、勤怠管理、社会保険の手続きといった業務は、正確な処理能力とExcelスキルが直結します。まさに事務職で培ってきた力が活きる場面です。
さらに、前職で事務職を経験している方や、Officeのスキルが高い方、または社会保険労務士などの労務関連の資格を取得している方は、労務管理を狙うことも選択肢の一つです。社会保険労務士の資格がなくても、「今勉強中」とアピールするだけで向上心を示せます。
ただし注意点があります。 未経験歓迎の労務求人は数が多くはないため、「絶対に大企業に転職したい」などのこだわりが強いと転職活動が難航する恐れがあるという現実も知っておいてください。まずは中小企業やベンチャーで実績を積んでから大手を狙う、という段階的な戦略が有効です。
採用アシスタントという選択肢
事務経験者にとって採用担当は一見遠く感じるかもしれませんが、採用担当であれば比較的要件が広いことがあり、採用されるチャンスがあるのも事実です。特にスタートアップや成長期のIT企業では、「採用事務から人事へ」というキャリアパスを用意しているところも増えています。
未経験から人事へ転職しやすい業界は「IT業界」「人材業界」です。IT業界はエンジニア不足、人材業界は未経験採用が活発で、人事部門においてポテンシャル重視での採用をしているからです。事務の仕事で身についたスケジュール管理力や調整力が、採用のオペレーション業務で評価されることがあります。
事務経験が人事転職で「強み」になる理由
「事務スキルなんて人事で役に立つの?」と疑問に思う方も多いはずです。しかし人事担当者の目線から見ると、事務経験者には他職種にない魅力があります。
人事の仕事には、期限が厳しい手続きが数多くあります。社員の入社・退社に伴う健康保険や雇用保険の手続き、年末調整、給与計算のサポートなど、どれも締め切りを守って正確に処理することが求められます。事務の現場でそれを日常的にやってきた経験は、人事の採用担当が「即戦力になりそう」と感じる重要なシグナルです。
また、企業が求めるのは「真面目で正確な処理ができる」「気配りができる」といった人物面に強みを持っている人であり、今の仕事での経験やスキルの一部は実はすでに評価対象になる可能性があるとされています。事務で積んできた経験をそのまま「人事では使えない」と捨てる必要はないのです。
事務で当たり前のようにやってきた「正確さ」と「期限管理」が、人事では立派な差別化ポイントになります。選考の場では、この事実を堂々とアピールしてください。
人事転職で求められるスキルと、事務経験者が補う部分
強みがある一方で、事務経験者が人事転職に挑む際に補強が必要な部分もあります。正直に把握しておくことが、遠回りを防ぐ近道です。
コミュニケーション力とヒアリング力
就活生、学校関係者、求職者、経営層など社内外のさまざまな立場の人と接する仕事のため、コミュニケーション力が必要不可欠です。学生や求職者に自社の魅力を伝えるプレゼンテーション力、経営層や現場社員が抱える課題を掘り下げて人事面から解決策を見つけ出していくヒアリング力も重要なスキルになります。
事務職は比較的社内の特定メンバーとのやり取りが中心になりがちです。採用面接や社員面談といった「相手の本音を引き出す対話」の経験が少ない場合、意識的に補う必要があります。たとえば、面接練習の場を増やす、OB・OG訪問をして人事担当者の話を聞くといった行動が有効です。
論理的思考とデータ分析力
人事は、会社で今何が課題なのかを把握し、人材をどう活用すれば解決できるかという経営的な視点で物事を考えたり、企画したりするスキルが必要です。人件費などに基づいた企画・提案なども求められるため、データ収集・分析が得意な人も向いているでしょう。
事務の仕事でExcelを使った集計・分析を日常的にやってきた方には、このスキルを延長線上でアピールできます。「勤怠データの集計をしていた」「Excelでマクロを組んで業務効率化した」といった経験は、労務担当としての適性を示すエビデンスになります。
人事関連の基礎知識
未経験の最大のハンデは「知識のなさ」だと思っている方が多いのですが、実はそこは資格や自己学習で補えます。 未経験者は説得力のある志望動機やコミュニケーション力・調整力、資格のアピールが重要です。社会保険労務士の勉強を始めていること、メンタルヘルス・マネジメント検定を取得していること、こうした「行動した事実」が選考で評価されます。
転職活動を有利に進める3つの準備
「準備が大事」とはよく言われますが、何を準備すればいいのか具体的に知りたい方のために、事務経験者が特に重点を置くべき3点を整理します。
まず、「なぜ事務ではなく人事なのか」を言語化することが最優先です。これは採用担当が必ず確認する問いです。
未経験から人事に転職するためのポイントは「志望動機」がカギを握っています。人事へのキャリアチェンジを決意した人は「人事に挑戦したい」と思ったきっかけがあるはずで、なぜ人事を選んだのか、人事のどのような点に魅力や将来性を感じているのかなど具体的な志望動機を作成することが重要です。
たとえば「事務として入退社手続きを担当するうちに、手続きだけではなく採用段階から人材に関わりたいと思うようになった」というストーリーは、事務経験者ならではの説得力があります。現在の業務と人事のつながりを自分の言葉で語れるか、これが選考の分かれ目です。
次に、事務での実績を「人事視点」で翻訳することが大切です。たとえば:
- 「社員の入退社手続きを月○件担当していた」→ 労務業務への適性と正確性のアピール
- 「給与計算に使うExcel帳票を整備した」→ 労務管理の実務への親和性
- 「採用担当のスケジュール調整をサポートしていた」→ 採用オペレーションへの理解
事務の仕事をそのまま「事務をやっていました」と伝えるだけでは不十分です。人事担当の目線で「この人は人事で使える」と思ってもらえる言い方に変換することが必要です。
3つ目は、年齢と在職中の動き方を意識することです。 年齢が若い方が有利になる傾向があるため、転職活動は早めに開始することが推奨されます。できれば20代〜30代前半ぐらいが、未経験から人事に転職する年齢の目安になります。20代であれば、在職中に動き出すことをおすすめします。退職後の転職活動は精神的・経済的な余裕がなくなり、判断が焦りがちになるからです。
「人事は選考が厳しい」という誤解と本当の難しさ
「人事の人は選考のプロだから、転職活動でも有利に決まっている」と思っていませんか。採用の現場で採用担当をしてきた筆者の感覚として言うと、これは完全な誤解です。
多くの求職者を「採用する側」として見てきた人事経験者は、面接で求められることや自己PRの回答方法など、採用に関する情報を知っているため転職に有利だと思われがちですが、実際はそんなことはありません。意外に思うかもしれませんが、人事経験者は面接が上手くいかずに苦労することが珍しくないそうです。
つまり、「採用経験がない=選考で不利」とは言い切れないのです。むしろ事務経験者として「私はこういう場面で正確に動けます」「こういう経験から人事に興味を持ちました」と素直に伝える姿勢のほうが、採用担当には好印象を与えることがあります。選考の場で「採用側の言葉」を使おうとして取り繕うよりも、自分の等身大の経験を具体的に語ることが大切です。
人事転職に役立つ資格|取得すべき優先順位
「資格がないと転職できないのでは」と不安に思う方もいるかもしれませんが、資格はあくまで補強ツールです。なくても転職できますし、あれば選考で追い風になります。事務から人事を目指す場合、優先度の高い資格を3つ挙げます。
- 社会保険労務士(社労士) 難関資格ですが、勉強中であることを面接でアピールするだけでも「労務知識を真剣に学んでいる」という意欲を示せます。労務アシスタントを狙う場合には特に有効です。
- メンタルヘルス・マネジメント検定(Ⅱ種・Ⅲ種) 取得しやすく、職場のメンタルヘルス対策への理解を示せます。大阪商工会議所が主催する民間資格で、労働者の心の不調の未然防止や対処法に関する知識を体系的に学べます。人事を目指す人にとって強みになるとされています。
- ビジネス実務法務検定(2級・3級) 労働法や契約の基礎知識をアピールでき、コンプライアンス意識を示す根拠にもなります。
資格の勉強を始めること自体が「人事への本気度」を証明する行動です。特に在職中の事務の方であれば、現在の業務と並行して少しずつ学習を進めておくと、面接でのエピソードが生まれます。
面接で伝えるべき志望動機と自己PRの作り方
事務から人事への転職で最も重要な関門は書類選考ではなく、面接での「なぜ人事なのか」という問いへの回答です。ここで曖昧な答えを返すと、どれだけスキルがあっても通過できません。
人事に限らず転職においてスキルや経験とともに「熱意」も非常に重要な要素になります。逆に考えると、熱意でスキルや経験の不足をある程度カバーできる可能性もあります。面接では「何ができるか」だけでなく「なぜこの会社の人事でやりたいのか」まで踏み込んで伝えることが差別化のポイントです。
事務経験者の志望動機として説得力が出やすいのは、次のような構造です。
- 事務の現場で感じた「人事の仕事への興味」(具体的なエピソード)
- その課題を人事という立場で解決したいという意志
- 自分のスキル・経験がどう活きるか(労務処理の経験、Excel、正確性など)
たとえば「入退社手続きを担当する中で、入社初日に書類不備があった社員が不安そうにしていた経験から、採用から入社後のフォローまで一貫して関われる人事になりたいと思いました」というエピソードは、事務経験者ならではのリアリティがあります。架空のエピソードは必要ありません。日々の業務の中に、志望動機のタネは必ずあります。
転職エージェントを使うべきか|編集部の見立て
「一人で転職活動を進めようとしたが、人事の求人がどこを見てもよく分からない」という声をよく聞きます。これは特定の転職サービスが悪いのではなく、人事求人はそもそも公開市場に出回りにくい職種だからです。
管理部門である人事部門は、配置人数が少なく退職者も少ない傾向のため、人事求人自体があまり市場に出回りません。求人票を眺めているだけでは母数が少なく、判断材料も得にくいのです。だからこそ、転職エージェントを活用して非公開求人にアクセスしたり、自分のスキルが評価される企業の傾向を知ったりすることが重要になります。
特に未経験転職の場合は、エージェントに「事務経験者として人事の労務領域を狙いたい」と明確に伝えることで、求人の絞り込みと書類・面接対策の両方をサポートしてもらえます。第二新卒・若手向けの転職エージェントは未経験でも相談しやすいので、まず一歩として活用してみてください。

まとめ|事務から人事へ、最初の一歩は「入り口の絞り込み」から
事務から人事への転職は、無策で挑めば難しいですが、戦略を立てれば十分に可能です。大切なのは、人事の中でも自分の経験が最も活きるポジションから始めること、そして事務の経験を「人事の言葉」で語り直すことです。
まず転職エージェントに相談し、自分のスキルがどの人事ポジションで評価されるか確認することが、最初に取るべき具体的なアクションです。
- 事務から人事への転職は、労務アシスタントや採用補助ポジションを入り口に狙うと現実的
- 事務経験の「正確さ・期限管理・Excelスキル」は労務領域で評価される強みになる
- 志望動機は「なぜ事務から人事なのか」を現業エピソードで具体的に語ることがカギ
- メンタルヘルス・マネジメント検定や社労士の勉強など、行動の事実が選考で差をつける
- 人事求人は公開市場に出にくいため、転職エージェントの活用が転職活動の効率を上げる

