「職場でいじめを受けているけれど、これを理由に転職するのは逃げじゃないか」と思っていませんか。そのまま我慢し続けて心身を壊してしまうほうが、よほどリスクは高いのです。転職は問題から逃げる行為ではなく、自分のキャリアを守るための正当な選択肢のひとつです。この記事では、転職のタイミングの見極め方から、面接での退職理由の伝え方、転職先で同じ状況を繰り返さないための環境選びのコツまで、当事者目線で具体的にお伝えします。
職場いじめの実態|6割以上が「解決していない」現実
まず現状を把握しておきたいのですが、職場いじめは決して珍しいケースではありません。 Job総研が2023年に実施した職場いじめの実態調査によると、職場いじめの被害を受けた人のうち、実に6割以上が「解決していない」という状況にあることがわかっています。「解決した」と回答したのは26.3%、「解決に向けて動いている」が11.9%という結果でした。
つまり、いじめに遭っている人の大多数は、今この瞬間もどうにもならない状況に置かれているわけです。「相談すれば改善される」「時間が経てばおさまる」と期待し続けるのが、実態としてはとても難しい。私自身も最初の会社でじわじわとした無視や仕事の横取りに遭遇したことがあります。最初は「自分の気にしすぎかも」と思っていたのですが、半年経っても状況は悪化する一方でした。
いじめと認識しにくいグレーゾーンの行為
職場いじめが厄介なのは、「これはいじめなのか?」と自分でも判断がつきにくい場合が多いことです。 あからさまなものから、一見わかりにくい巧妙なものまで様々なケースがあります。 具体的には、以下のような行為がいじめとして認識される可能性があります。
- 集団での無視・挨拶を返してもらえない
- 自分だけ情報共有から外される
- 担当業務の成果を横取りされる、または責任をなすりつけられる
- 個人の能力・容姿・性格を貶める発言を繰り返される
- 不必要に仕事量を増やされる、あるいは意図的に仕事を与えられない
- ミスを大げさに吊るし上げる、公衆の面前で叱責する
理不尽な言動や人格を否定するような表現、見た目や能力を悪く言うなどの行為は立派ないじめであり、内容がひどすぎる場合はパワーハラスメントとして訴えることもできます。 「これくらい我慢しなければ」と思ったとき、その感覚こそが一番の危険サインです。
転職を考える前にやっておくべきこと|記録と相談の二本柱
転職を検討する前に、まず手元に「事実の記録」を積み上げることを強くおすすめします。感情ではなく事実を残すことが、後々の転職活動でも、万が一法的措置が必要になった場合にも、どちらにも役立ちます。
記録の取り方|日時・内容・目撃者のセットで残す
いじめの記録は「日時・場所・発言内容・その場にいた人物」のセットで残しましょう。メモアプリへの記録でも、紙のノートでも構いません。重要なのは、出来事が起きたその日のうちに記録することです。時間が経つと記憶があいまいになり、後で「あれはいつだったか」と整理できなくなります。
対話の際には録音や画像保存など、後で検証できるデータを残しておくことも重要です。 スマートフォンのボイスレコーダー機能は、こうした場面で使いやすいツールのひとつです。ただし、録音できる環境かどうかは状況によりますので、無理をする必要はありません。
社内外の相談窓口を活用する
記録が少しでも揃ったら、信頼できる窓口に相談することをおすすめします。 職場いじめに対して一人で対処することは難しいため、自分の味方になる人を見つけることが大切です。上司が加害者の場合は、「社内の相談窓口」「ハラスメント悩み相談室」「総合労働相談コーナー」といった相談窓口を利用しましょう。
主な相談先をまとめると、以下のとおりです。
- 総合労働相談コーナー(厚生労働省)…労働全般の無料相談。全国の労働局・労働基準監督署に設置されており、予約不要で相談可能
- ハラスメント悩み相談室(厚生労働省)…パワハラ・セクハラ等のハラスメント専用の無料相談窓口
- 法テラス…弁護士費用の立替制度もあり、法的手続きを視野に入れる場合に活用できる
- 社内の人事・コンプライアンス窓口…社内での解決を望む場合はまずここへ。ただし加害者と同じ上長ラインには注意
編集部として多くの転職体験談を読んできた実感として、「相談した記録を残しておくこと」自体が、後の転職活動や法的対応で意外なほど力を持ちます。「相談しても会社は動かなかった」という事実が、転職面接での「やむを得ない理由」を証明する根拠にもなるのです。
転職に踏み切るタイミング|「もう限界」は遅すぎる
「転職は最後の手段」と考えている人が多いのですが、私はこの考え方を変えてほしいと思っています。心身に支障が出てから動き始めると、転職活動そのものを行う体力・気力が残っていないことが少なくないからです。
いじめを仕方のないことと諦めたり、自分が悪いと自己否定したりして無理に働き続けると、行為がエスカレートしたり、心身に不調をきたしたりする恐れがあります。加害者をかばうような体質がある職場は、いじめが常態化している可能性もあるため、安心して働ける職場へ移ることを検討しましょう。
「転職活動を始める」と「会社を辞める」は別の話
ここで多くの人が混同しがちなのが、「転職活動を始めること」と「今すぐ会社を辞めること」をセットで考えてしまうことです。この二つは切り離して考えてください。
転職活動は、在職中のまま始めることができます。エージェントへの登録・求人閲覧・応募書類の準備など、初期ステップはすべて現職に在籍しながら進められます。「転職活動を始める=今の職場を捨てる決断」ではありません。選択肢を手元に確保しながら、状況を見極めることができるのです。
転職を決断するのは内定が出てからでも遅くありません。まず動き始めること、それだけで心に余裕が生まれます。実際、私が1回目の転職を検討したときは「動き出してみたら意外と早く内定が出た」という経験をしました。行動する前から「転職なんて難しいだろう」と思い込んでいたのは、完全に杞憂でした。
休職という選択肢も忘れずに
転職準備を始める前に、心身がすでに限界に近い場合は休職も選択肢です。 いじめがひどくて会社に行くのもしんどいと感じる場合、診断書を会社に提出して休職するのも有効な方法です。ひとまず休職すればこれ以上被害を受けることはなく、これからの対処法についてゆっくり考える時間も確保できます。
休職中は傷病手当金(健康保険の給付)を受け取れる場合があります。在職期間・加入期間の条件がありますので、詳細は加入している健康保険組合または全国健康保険協会(協会けんぽ)に確認することをおすすめします。
面接で「退職理由がいじめ」をどう伝えるか
転職活動で多くの人が頭を悩ませるのが、面接での退職理由の伝え方です。「正直にいじめと言っていいのか」「ネガティブな理由は評価が下がるのでは」という不安を持つ方は多いでしょう。
結論から言えば、「いじめを受けました」とそのまま伝えることはおすすめしません。理由は二つあります。ひとつは、面接官が「人間関係でトラブルを起こしやすい人なのでは」と誤解するリスクがあること。もうひとつは、ネガティブな感情のまま話すと、志望動機の話に切り替えにくくなることです。
ポジティブな言い換えの基本パターン
退職理由を伝える際の基本構成は「現状の課題→改善の努力→限界の認識→前向きな転職理由」の4ステップです。以下のように言い換えることで、ネガティブな印象を与えずに本質を伝えられます。
- 「職場の人間関係に問題があった」→「チームの連携環境に課題を感じ、改善を試みましたが難しい状況でした。より協力し合える職場環境で力を発揮したいと考えました」
- 「無視・仲間外れにされた」→「組織の雰囲気が自分の働き方とフィットせず、中長期的なキャリアを考えたとき、環境を変える必要があると判断しました」
- 「仕事を与えてもらえなかった」→「スキルを活かせる機会が限られており、もっと主体的に貢献できる職場へ移りたいと考えました」
大切なのは、「前の職場の悪口」ではなく「自分がどういう環境で働きたいか」を中心に話を組み立てることです。転職先への志望理由と退職理由がつながっていれば、面接官に説得力を持って伝わります。
詳細を深掘りされたときの対応
面接で「具体的にどんな問題でしたか?」と深掘りされることがあります。そのときは、「詳細はお伝えしにくいのですが、組織内でのコミュニケーションの問題で、複数の方に相談しても改善が難しい状況でした」と事実ベースで答えるのが無難です。「相談した」「改善を試みた」という行動を示すことで、受動的に被害を受けていただけではないというイメージを持ってもらえます。
転職先でまた繰り返さないための職場環境の見極め方
職場いじめを経験した人が転職後に最も心配するのが、「また同じ状況になるのでは」という不安です。この不安は完全には消えませんが、事前のリサーチと面接での見極めで、リスクをかなり下げることができます。
求人票・企業情報で確認すべきポイント
まず求人票の段階でチェックすべき点があります。離職率・平均勤続年数・ハラスメント相談窓口の有無・育休取得率などは、企業の公式サイトや有価証券報告書(上場企業の場合は金融庁EDINETで閲覧可能)に開示されている場合があります。これらの数値が悪い企業は、職場環境に課題がある可能性があります。
口コミサイト(OpenWorkやGoogleレビュー等)の情報も参考になりますが、これらはあくまで第三者の主観的な感想であり、すべてを事実として受け取るのは禁物です。複数の口コミに共通して「人間関係が良くない」「上司によって扱いが大きく違う」といったパターンが見られる場合は、注意のサインとして頭に置いておく程度にとどめましょう。
面接で職場環境を見極める質問
面接は企業が応募者を評価する場であると同時に、応募者が企業を評価する場でもあります。以下のような質問を逆質問として使うことで、職場環境のリアルを確認できます。
- 「チームの雰囲気を教えていただけますか?意見を言いやすい環境かどうかが気になっています」
- 「入社後にギャップを感じやすい点があれば、正直に教えてください」
- 「ハラスメントに関する社内相談窓口はどのような形で整備されていますか?」
- 「直属の上司の方はどのようなマネジメントスタイルですか?」
これらの質問に対して、面接官が嫌な顔をする・回答を曖昧にする・「そんな心配は不要です」と打ち切るような反応をするなら、それ自体がひとつの情報です。良い職場環境の企業ほど、こうした質問に丁寧に答えてくれることが多いという印象があります。
転職エージェントを使うメリット|情報量の差を埋める
一人で転職活動をすると、どうしても企業の内情に関する情報は限られます。転職エージェントを使う最大のメリットのひとつは、担当エージェントが持つ「その企業のリアルな社風情報」にアクセスできることです。
私がIT→コンサルへのキャリアチェンジをした際、転職エージェントの担当者に「この会社、入社後の定着率はどうですか?」「配属先の文化に関して正直なところを教えてください」と聞いたところ、求人票からは読み取れない情報をかなり率直に教えてもらえました。エージェントは企業側とのリレーションを持っているため、表に出ない情報を持っていることが多いのです。
特に職場いじめを経験して転職を考えている方は、エージェントへの登録時に「人間関係や職場環境を重視して転職先を選びたい」と最初から伝えておくことが重要です。そうすることで、担当エージェントが環境面を意識して求人を絞り込んでくれます。
在職中に転職活動を進める際の注意点
転職活動を在職中に進める場合、いくつか注意しておきたい点があります。
まず、転職活動中は現職でのパフォーマンスをできる限り維持することをおすすめします。転職先への入社日の調整が必要になることが多く、現職との円満退職が後々の評判にも影響することがあります。いじめを受けている状況で「丁寧にやる必要があるのか」と思う気持ちは理解できますが、自分のキャリアを守るための行動として捉えてください。
次に、転職活動中に現職での状況が悪化した場合は、迷わずメンタルクリニックや心療内科への受診を検討してください。診断書があると、休職申請がスムーズになります。転職と休職は同時並行でも進められます。「転職が決まってから休もう」と無理をするより、先に医師に相談するほうが安全です。
よくある疑問に答えます
職場いじめを理由とした転職を検討している方から、よくある疑問をまとめました。
短期間での転職は不利になりますか?
在籍期間が1〜2年未満の場合、「すぐに辞める人では」と見られるリスクはゼロではありません。ただし、職種・業界・会社規模によって採用担当者の見方は異なります。退職理由を論理的に説明でき、転職先への前向きな志望理由が明確であれば、短期での退職は致命的な要因にはなりません。重要なのは「なぜ辞めたか」より「次に何をしたいか」がクリアに伝わるかどうかです。
傷病手当金を受給しながら転職活動はできますか?
休職中に傷病手当金を受給している場合、退職後も一定期間は受給を継続できる場合があります(在職期間や健康保険の加入期間に条件あり)。ただし、転職先での勤務が始まると受給は終了します。詳細は加入している健康保険組合または協会けんぽに直接確認することをおすすめします。
転職を勧めてくれる人がいないと不安です
職場いじめを受けていると、相談できる人が職場にいないケースも多いでしょう。そういった場合こそ、転職エージェントへの相談が有効です。転職エージェントは求人紹介だけでなく、「今の状況で転職すべきかどうか」といったキャリア相談にも乗ってくれます。登録・相談は無料のサービスがほとんどですので、まず話を聞いてもらうだけでも十分な価値があります。
転職エージェントへの登録で「次の選択肢」を手に入れよう
職場いじめを経験した方が転職活動を始める際、まず2社以上のエージェントに登録することをおすすめします。1社だけだと求人の幅が偏り、比較軸がなくなります。初回面談で「職場環境を重視した転職を考えている」と明確に伝えることで、担当者も適切な求人を提案しやすくなります。
特に20〜30代の方には、若手・第二新卒向けの求人に強いエージェントとの相性が良い傾向があります。以下の比較記事で、あなたに合うエージェントを確認してみてください。

まとめ|職場いじめを理由とした転職は「正しい判断」
職場いじめが理由で転職を考えることは、逃げでも恥でもありません。自分のキャリアと心身の健康を守るための、合理的な判断です。大切なのは、感情のままに動くのではなく、記録・相談・準備という手順を踏んで動き始めることです。
- いじめの被害者の6割以上が「解決していない」という実態があり、我慢し続けることが必ずしも正解ではない
- まずは日時・内容・目撃者のセットで証拠を記録し、総合労働相談コーナー等の公的窓口へ相談する
- 「転職活動を始める」と「今すぐ退職する」は別物。在職中に選択肢を手元に用意するだけで、心に余裕が生まれる
- 面接での退職理由は「前職の悪口」ではなく「どういう環境で働きたいか」を中心に伝える
- 転職エージェントへ「職場環境重視」と最初に伝えることで、求人の質が大きく変わる

