「IT業界に転職したいけれど、エンジニアにはなれそうにない」——そう感じて諦めかけていませんか。実はIT業界には、プログラミングスキルが不要な事務系の職種が複数あります。しかも、IT業界の事務職は、一般事務よりも将来のキャリアの幅が広いという点で注目を集めています。この記事では、人事コンサルタントとして採用現場を見てきた経験をもとに、IT業界の事務職の種類・仕事内容・必要なスキル・転職を成功させるコツまで、順を追って解説します。
IT業界の「事務」とは一般事務と何が違うのか
「IT業界の事務って、普通の事務と何が違うんですか?」と聞かれることがよくあります。結論からいうと、仕事の中心は変わらず「人・情報・モノを整えること」ですが、周囲がITエンジニアやエンジニア部門であるため、IT用語や業務フローに慣れる必要があるという点が大きく違います。
一般事務であれば、業界固有の専門知識がほとんど問われないケースが多いです。一方でIT業界の事務では、システム開発の工程管理を補佐したり、ソフトウェアのライセンス管理を行ったりと、ITビジネス特有の業務が日常的に発生します。
よくある誤解として「IT事務=ITが得意な人しか採用されない」というものがありますが、実際はそうではありません。 未経験OKで最近求人数が増えているのが「IT事務・ITサポート事務」であり、まずIT業界に飛び込みたいという方には注目の職種です。 一般的なPCスキルと意欲があれば十分に挑戦できる求人が多く存在します。
IT業界の事務系職種|種類と仕事内容を整理する
「IT業界の事務」と一口に言っても、実際にはいくつかの職種に分かれています。どの職種が自分に合っているかを見極めるため、まず代表的な種類を整理しておきましょう。
IT事務(一般事務のIT版)
IT事務は、主にITエンジニアをサポートする職種です。一般的な事務業務も含まれているため、異業種での事務経験があれば転職に有利に働く可能性があります。 具体的には、プロジェクトのスケジュール管理補佐・契約書や請求書の処理・エンジニアの勤怠管理・会議の議事録作成などが中心的な業務です。
エンジニアと密接に関わる機会が多いため、自然とIT知識が身につきやすい環境です。採用現場で見ていると、「人の役に立ちながら成長したい」と考える方がこの職種にフィットする傾向があります。
ヘルプデスク・テクニカルサポート
ヘルプデスクやテクニカルサポートは、製品への問い合わせ窓口としての役割を持つ職種で、必要とされる技術的なスキルは高くないため、未経験でも比較的転職しやすいです。ユーザーと直接相対する仕事のため、ホスピタリティが求められます。
ヘルプデスクは一次対応を担い、テクニカルサポートはより高度な技術的問題に対応するという役割を果たしており、テクニカルサポートの方がより深いIT知識が求められる傾向にあります。 コールセンター経験者や、接客・営業経験のある方が評価されやすい職種です。
PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)事務局
PMO補佐とも呼ばれる役割で、プロジェクト管理を事務面からサポートする仕事です。進捗レポートの作成・リスク管理ドキュメントの整理・関係者への情報共有を担います。即戦力よりも「丁寧・正確・段取りが得意」という素養が重視されるため、前職で事務経験がある方には狙い目の職種です。
バックオフィス(経理・人事・総務)のIT企業版
経理や人事、総務など、バックオフィスとも呼ばれるこれらの仕事は、他の業界と同様に、それぞれの分野の専門性があればIT未経験者であっても挑戦できる職種です。ITスキルや知識が特別に必要なわけではありませんが、一般的なIT知識があると証明できる「ITパスポート」は持っていて損はない資格です。
経理や人事の専門スキルを持つ方であれば、IT企業への転職は比較的スムーズです。フレックスやリモートワークが整った職場環境を求めて、他業界からIT企業のバックオフィスを目指す方も採用現場では増えています。
IT業界の事務は本当に未経験でも入れるのか
「未経験でも応募できる求人はあるのか、不安に思う方も多いはずです。」実際の求人市場を見ると、特にIT事務・ヘルプデスク領域は未経験OKの求人が継続的に出ています。その背景にはIT業界全体の人材不足があります。
厚生労働省の「労働経済動向調査(令和5年11月)の概況」によると、IT業界を含む情報通信業で人材不足を感じている企業の割合は54%でした。IT業界は需要の高まりに対し、人手が足りていない状態にあることから、未経験者を歓迎している企業が増加傾向にあります。
ただし、注意が必要な点もあります。未経験で狙えるのは、主に入口レベルのポジションです。年齢によってもハードルは変わります。 特に20代はポテンシャル採用されやすく、選べる求人も多いため、未経験でもチャンスが豊富にあります。30代になると、企業は即戦力としての経験やスキルを求める傾向が強まり、「未経験OK」の求人が減少します。そのため、30代以降は資格取得やスキル習得など、事前の準備がより重要になります。
30代で未経験からIT業界の事務職を目指す場合は、前職で身につけたスキル(経理・法務・営業管理など)を軸に「即戦力性」を前面に出す戦略が有効です。詳しくは後述の「転職成功のコツ」で解説します。

IT業界の事務職に転職するために必要なスキルと資格
「どんなスキルを準備すればいいのか」という疑問はほぼすべての応募者が持ちます。IT業界の事務職では、技術的な専門スキルよりも、「IT用語の基礎理解+これまでの事務・業務経験」の掛け合わせが評価軸になります。
PC・ビジネスツールのスキル
WordやExcelはもちろん、IT企業ではSlack・Notion・Backlog・Confluenceなどのプロジェクト管理ツールを日常的に使います。転職前から無料プランで触れておくと、面接での説得力が増します。
一般的なPCの操作とタイピングができることは求められ、基本的なプレゼン資料などの書面が作れるようなスキルは歓迎されます。ユーザーとしてITサービスになじんでいる、強い興味・関心を持っていて自己研鑽する意欲があるとアピールできれば良いでしょう。
ITパスポート
IT業界の事務職で最も汎用性が高い資格がITパスポートです。IT全般の基礎知識を体系的に学べ、取得にかかる期間は一般的に1〜3ヶ月程度とされています。エンジニア向けの資格ではなくビジネス全般の資格であるため、「ITの全体像を理解している」ことを証明するために有効です。
MOS(Microsoft Office Specialist)
ExcelやWordのスキルを客観的に示したい場合はMOSが有効です。特にExcelのMOS取得は、データ集計・資料作成が多い事務職での即戦力アピールにつながります。
ビジネスコミュニケーション力
IT業界の事務では、エンジニアや営業・顧客など多様なステークホルダーと日常的にやりとりします。技術的な話を非技術者にかみ砕いて伝える力や、複数部門の調整をこなす段取り力は、非常に高く評価されます。前職でのチーム連携・顧客対応・関係各所との調整経験があれば、積極的にアピールしてください。
IT業界の事務転職で「年収はどう変わるか」を正直に解説する
「IT業界に行けば年収が上がるのでは」と期待する方は多いです。正直にお伝えすると、事務職としてIT業界に転職した場合、入社直後の年収は劇的に上がるとは限りません。ただし、IT業界特有の職場環境や将来性という観点では、他業界の事務職とは異なるメリットがあります。
正社員事務職の平均年収は320万〜400万円程度です。 IT企業の事務職も、入社時点ではこの水準と大きく変わらないケースが多いのが実情です。ただし、IT業界を含む情報通信業では、厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査によれば平均年収が約598万円水準とされており、エンジニアや上位職になるほど年収は上昇していきます。
事務職としてIT企業に入社した後、ITパスポートやプロジェクト管理の知識を積み上げてPMO担当や社内SEの補佐へキャリアチェンジした方を採用現場で複数見てきました。IT業界の事務は「IT業界へのエントリーポイント」として機能するという点が、一般事務との最大の差分です。
なお、30代で転職した場合の手取り水準については、以下の記事も参考にしてください。
30代の転職で手取りを増やす方法と年収の目安を解説した記事も合わせてご確認ください。
IT業界の事務への転職を成功させる3つのコツ
採用担当者や人事コンサルタントとして多くの求職者を見てきた中で、IT業界の事務転職を成功させた方に共通するポイントが3つあります。
「なぜIT業界の事務なのか」を言語化する
IT企業の採用面接で最も多く聞かれる質問のひとつが「なぜIT業界の事務を選んだのか」です。よくある失敗パターンは、「ITに興味があるから」「成長産業だから」という曖昧な答えです。
成功する方は「前職でシステム導入プロジェクトの事務局を担当し、エンジニアとの連携に面白さを感じた」「SaaSサービスを日常的に使う仕事に関わりたい」のように、具体的なエピソードとIT業界への接点を志望動機に盛り込んでいます。
前職の「事務スキル+α」を整理する
「私は普通の事務しかやってきていないので強みがない」と不安に思う方も多いはずです。しかし、IT企業で求められる事務スキルは特殊なものではありません。
採用担当として評価される「事務スキル+α」の例を挙げると、以下のようなものがあります。
- 複数部署の調整業務の経験(IT企業ではクロスファンクショナルな連携が多い)
- Excelを使ったデータ集計・レポート作成の実績
- 社内システムの導入補佐や操作マニュアル作成の経験
- 顧客対応・問い合わせ対応の経験(ヘルプデスク寄りのポジションに有効)
これらを「〇〇という課題に対して、〇〇という方法で〇〇という成果を出した」と整理しておくことで、面接での説得力が大きく変わります。
転職エージェントを活用してIT業界の求人に絞り込む
IT業界の事務職求人は、一般の転職サイトにも出てはいますが、非公開求人の比率が高いことも多いです。IT業界に強い転職エージェントを利用すると、表に出ていない優良ポジションへのアクセスや、IT企業の文化に合った書類・面接対策を受けることができます。
30代の方が転職エージェントを選ぶ際のポイントについては、こちらの記事も参考になります。

IT業界の事務転職で失敗しやすいパターンと対策
転職希望者と面談していると、同じ失敗パターンを繰り返している方がいます。ここでは代表的な3つを取り上げます。
「IT業界ならどこでもいい」と幅を広げすぎる失敗
IT業界は、SIer・Web系・SaaS系・通信系など、企業のカラーが大きく異なります。事務職でも、SIerのプロジェクト事務とSaaSスタートアップのオペレーション担当では、求められる動き方がまったく違います。
志望企業を絞らずに応募を広げると、面接での志望動機が薄くなり通過率が下がります。「どんなIT企業」「どんな事務の役割」なのかを具体化した上で応募することが重要です。
「IT知識ゼロ」をアピールポイントにする失敗
「ITは全くわかりませんが、一生懸命頑張ります」という姿勢は採用担当の目には響きません。IT業界の事務職への応募前に、少なくともITパスポートレベルの基礎知識を身につけておくか、志望するIT企業の提供サービスや事業モデルを調べておく最低限の準備は必要です。
「事務経験がない」まま応募する失敗
未経験歓迎とはいっても、完全に事務未経験の場合は選考通過のハードルが上がります。書類作成・データ入力・電話対応などの業務経験がある方は、それをしっかり職務経歴書に明記することで差がつきます。
未経験からの転職に挑む方全般に参考になる観点はこちらの記事にまとめています。
30代で未経験職種に転職する際に成功できる人の特徴と狙い目職種も合わせて読んでみてください。
IT業界の事務からさらに広がるキャリアパスとは
IT業界の事務職は「ゴール」ではなく「スタートライン」です。入社後にIT知識を積み上げることで、多様なキャリアパスが開けてきます。
実際に採用現場や転職支援の場で目にしたキャリアチェンジの例を挙げます。
- IT事務 → PMO担当 → プロジェクトマネージャー補佐
- ヘルプデスク → 社内SE → ITインフラ担当
- IT企業の経理・人事 → 人事システム導入担当 → HR Tech領域のスペシャリスト
プログラミングを学ばずとも、「業務知識+IT企業でのオペレーション経験」を積み上げることで、市場価値は着実に高まっていきます。IT業界に一歩足を踏み入れることが、後のキャリアの選択肢を格段に広げるのです。
また、IT業界での事務経験を積んだ後に営業職へ転じて活躍するケースも少なくありません。営業職へのキャリアチェンジを検討している方はこちらも参考にどうぞ。
30代の転職で営業職が市場価値を高める方法や狙い目業界の解説もご覧ください。
よくある疑問に答える|IT業界事務転職のQ&A
転職相談や面談の中で繰り返し出てくる質問をまとめました。
IT事務とIT営業、どちらが転職しやすいか
求人数という観点では、IT営業の方が全体的に多い傾向があります。しかし「営業ノルマが苦手」という方にはIT事務の方が向いているでしょう。一方で、ノルマよりもコミュニケーションを軸に活躍したい方はIT営業も選択肢に入ります。自分が「数字への責任」と「サポート業務」どちらに軸を置きたいかで判断するのが合理的です。
女性がIT業界の事務に転職する場合に注意すべき点はあるか
IT業界は他業界と比べて男性比率が高いですが、事務・バックオフィス領域では女性が多く活躍しています。また、フレックス・リモートワーク制度が整っている企業が多いため、育児との両立を考えている方にとってもメリットがあります。30代女性が事務職転職を検討する際の詳しい情報は以下をご確認ください。
30代女性の事務への転職で難しいといわれる理由と成功するための戦略も参考にしてください。
転職活動中に仕事を辞めるべきかどうか迷っている
IT業界の事務職への転職を目指す場合、在職中に活動を進める方が圧倒的に多いです。在職中なら収入の心配なく選考を進められ、焦りから妥協した選択をするリスクも下がります。辞めるか迷ったときの判断基準についても整理した記事があります。
転職エージェントへの相談が次の一歩になる
IT業界の事務転職を成功させるには、「どの職種を目指すか」「どんなスキルをアピールするか」「どの企業文化が自分に合うか」を整理した上で動き出すことが大切です。一人で抱え込まず、転職エージェントに初回相談だけでも行ってみることをおすすめします。まず無料で自分の市場価値を確認することが、具体的な次のアクションになります。

まとめ|IT業界の事務転職は「準備と職種の絞り込み」が鍵
IT業界の事務職は、プログラミングスキルがなくてもIT業界に足を踏み入れられる有力なルートです。人材不足を背景に未経験歓迎の求人は引き続き存在しますが、年齢や経験によって準備の深さが問われることも事実です。自分のスキルと志望職種を整理し、具体的な志望動機を持って臨むことが成功への近道です。
- IT業界の事務職には「IT事務・ヘルプデスク・PMO補佐・バックオフィス」など複数の種類があり、自分の経験に合った職種を選ぶことが大切
- 未経験でも挑戦できるが、ITパスポートの取得や前職のスキルの言語化など事前準備で合否が大きく変わる
- 入社直後の年収は一般事務水準から大差ないが、IT業界でのキャリアを積むことで将来の選択肢が広がりやすい
- 「なぜIT業界の事務なのか」を具体的なエピソードで答えられるよう準備し、志望企業のサービス・事業モデルを必ず事前に調べる
- 転職エージェントを活用することで非公開求人へのアクセスやIT業界特有の面接対策が受けられる

